本日の北京(2020年ブログ版)

軽く、リアルに北京を語るライターブログ

一人漫才その1 秀才だけど脱力キャラの李雪琴

李雪琴は北京大で広告学を学んだあと米国NYU(New York University)に留学(休学)した才女で、まだ25才という若さだ。去年頃からブームの人だ。彼女のトレードマークは強い東北訛りとけだるそうな脱力した素振り。

 

ドラえもんののび太的なだらけて冴えない人が許されない中国。分かりやすいクリーンで強く賢いヒーロー人気の文化にあって、彼女のように脱力した人は珍しいキャラだ。

 

笑いの内容って実は豊富だ。ぜんじろうさんいわく、日本は、仲間内で笑える村的なギャグが多いのに対し、欧米は宗教や国民文化など、強く彼らを縛る権威をネタにして笑う知的なものが多い。中国は両方あるが、権威を笑う知的なネタは余り聴かない。

 

李さんが良くネタにするのが、東北の田舎で30年前、いや半世紀前とそれほど違わない暮らしをしているであろうお母さん。素朴で温かく時に可愛い位だが、その一方で、どどうしょうもない古さや昔の匂いがする。大都会の北京で暮らす彼女から見ると100年に相当するギャップがある。

 

彼女の出身地は遼寧省の鉄嶺という普通の中国人はみんな知らない小さな田舎。それでも、お母さんは北京で一旗揚げようと頑張る娘に対して鉄嶺が全てよ、と語る。

「仕事、首になった、というと、母ちゃんは鉄嶺に戻っておいで!という」

「失恋した、というと、母ちゃんは鉄嶺に戻っておいで!という」

「ネットのファンが減ったというと、母ちゃんは鉄嶺に戻っておいで!」

「母ちゃんにとって、鉄嶺は宇宙の終点そのものなのよね」

 

また、自分は北京の暮らしはそんなに幸せじゃないし、やっぱり北京を去ろうと思うというと、周りの人は「ええ、北京を去るなんて惜しくないの?」とすごく心配する。まるで私がかつて北京を所有したかのよう。でも北京は私の名前さえ知らない。

 

そして、鉄嶺に帰るというと「鉄嶺なんて、地下鉄さえないじゃない!」と友人はバカにする。

「でも地下鉄って、そんなに自慢すること?毎日ぐるぐる回ってるだけじゃない」

「皆友達は北京に居ないと夢はかなわないというけど、北京オリンピックじゃあるまいし、私の夢は鉄嶺でも十分実現する。地元のダックや煮込み料理を食べられれば私はハッピー。とにかく、それぞれにそれぞれの選択がある、私は(もう一人のお笑いの人気者で、ライバルでもある)王建国を選ぶわ!」

 

彼女のライブを聞く若い20代の女性たちの多くが彼女と同じように地方から大都市で成功しようと思って勝負をしている人たちなのだろう。訛も直さず田舎の素朴な温かさを面白く肯定し、競争に勝つとか、インフラが素晴らしいとかそう言うことではない大切なことを思い出させてくれる。それでいて、北京大を出て、自分を持っているという彼女の脱力ギャグが受けているのかも知れない。笑いって深いね!

 

これ、本日の北京なり。